猫のチーコが称名寺にやって来た頃のことです
獣医さんから 病気ケガの予防のため室内飼いを勧められたことと
お寺にたくさんある障子や襖を 猫の爪とぎから守るために
チーコのいつもいる場所を 階段とその周辺の板の間にすることにしました
合わせて6~8畳ほどの広さの板の間に階段の上下もできるし
都会の猫さんに比べたら十分な広さよね
などというのは 飼い主の勝手な思いで…
隙あらば扉の向こうに飛び出すチーコ
広間よりもお御堂よりも
チーコはもっと広々とした世界に行きたかったのです
外には気持ちの良い風が吹いて 草や木もそよそよと
おいでおいでと呼び掛けてくれています
大きな空の下で大地を駈け回り
小さな虫たちを捕まえるのも 暗がりを冒険するのも
人間の都合から見ると 泥の着いた足で出入りするのは困る~!なのですが
チーコにとっては楽しくて仕方ないことなのです
次の年の春のことです
隙を狙って表に出たチーコと 外の水場でばったり出会いました
捕まって連れ戻されないように逃げるかと思いきや
その瞬間 静かに目を閉じるチーコ
まるで瞳を閉じれば目の前から世界は消えてしまうと悟っているかのように…
泰然自若としたその姿に
自然のものを人間の思いの中に閉じ込めておこうなどという考えが
そもそも愚かだったのだと知らされて
以来チーコは家の中と外を好きに行き来できる自由の身となったのでした
生きる喜びとは 世界と一つになって 心と体が解放されていること
猫と暮らして教わった大切なことです