称名寺へようこそ

富山県小矢部市 真宗大谷派 称名寺のブログ

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本当の親さま

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今日はよくお寺にお参りされ方のお話しです。いつもにこやかに手を合わせ「ナンマンダブツ」とお念仏申していたおばあちゃん、ある時お御堂の縁に座って、子どもの頃のことを話してくれました。

小学生の頃、田んぼの仕事で忙しい両親に代わっての子守り、弟や妹をおんぶして学校に行き、授業中に幼子が泣き出すと、先生から廊下に出てなさいと言われ、授業を受けられないことがよくあったそうです。みんなについていけなくて、我慢したり、さみしいこともあったことでしょう。

10代の頃は日本が世界の国々と戦争をしていた時代、世の中の役に立ちたくて、親の反対を押し切って遠くの工場に働きに行ったそうです。きっと自立心の強い、しっかりとした女の子だったんでしょうね。不思議なことに、その工場では皆で親鸞さまの『正信偈』をお勤めすることがあり、そこで『正信偈』のお勤めを覚えたそうです。

大人になってやさしい人と出逢って結婚し、外で働きながら穏やかな家庭生活を営み、今度はお寺にお参りしてお聴聞をするようになり、阿弥陀さま、親鸞さまの教えに親しまれました。お説教を聞きながら黒板に書かれた漢字の読み方を覚えたそうで、そのことを「子どもの頃学校で聞けなかったでしょう。だからとてもうれしかったの」と満面の笑みでよろこばれていました。

しかし、長らく聞法をされても、なかなか阿弥陀さまのお心がわからず、悶々とされたこともあったそうです。そんなある日のこと、座敷の掃き掃除をしていたときに急に「阿弥陀さまが本当の親さまだ!」とわかって、うれしくてうれしくて箒を放り投げて飛び上がってよろこんだそうです。そして「私本当に、阿弥陀さまのお心をいただいてうれしくてならんが。みんなにも知ってほしいが。親鸞さま教えてくれなんだら、私みたいにきかんもんどうなっとったことか。本当にありがたいことなが」といったことを語ってくれたのです。

その方は穏やかな優しいかたですが、それでも人間誰もが腹の底に抱えている強情さというのをよくよく分かっておられて、しかもそれを自分の力ではどうすることもできないということに悩んでおられたのではないでしょうか。

自分の思いが叶わない、条件が揃わず何かを諦めなければならないとき、こんなところに生まれなければ…とか、家族に理解されなかったり、家にも学校にも仕事場にもどこにも居場所がないと感じるとき、親も兄弟も友達もいない、この世の中にたった一人でいるような気持ちになってしまうことがあると思います。

見た目にはごく普通に暮らしていたとしても、心の中には真っ暗な宇宙に一人放り出されたかのような底知れぬ孤独と不安をを抱えているものに、阿弥陀さまは「大事な大事なたった一人の子よ」と、親の名告りをあげてくださっている。私に子どもの頃からのことを聞かせてくださったその方は、どんなあなたでもいい、そのままのあなたで、決してあなたを見捨てないというはたらきに出会い「阿弥陀さまこそが本当の親さまだ!」といただかれたに違いないと思うのです。